介護予防~栄養編と認知症編前半~
栄養編
脳卒中→寝たきりの予防
諏訪中央病院の鎌田名誉院長が1974年に医師として赴任した長野県茅野(ちの)市は脳卒中患者が多い地域でした。そこで先生は地域に出向いて脳卒中予防の講演を行ったところ次第に脳卒中は減り、健康長寿の地域になりました。
講演で伝えたのは、血管を若々しく保つことの大切さです。まず減塩、色のついた野菜をしっかり食べること、血管の老化を招く活性酸素を防ぐために抗酸化力のある色素を含む野菜、魚、チーズなど発酵食品をとることが効果的です。
血糖値を下げて血管の老化防止
膵臓は血糖値を下げるホルモンのインスリンを出す働きがあります。膵臓を疲れさせない(血糖値が上がると血管が傷つきます)ために・・・
玄米、白米+麦、白米+納豆等のネバネバしたものを食べると血糖値の上昇が少し緩やかになります。
※ワルファリンを服用されている方は納豆・グレープフルーツ・マンゴーは控えてください(薬の相互作用が働き、薬が効かなかったり効きすぎたりします)。
また、野菜やこんにゃく、海草などを先に食べます(順番が大事です)。
ショウガ、トウガラシ、ネギ、ワサビは生活習慣病を予防するホルモン(アディポネクチン)の分泌を促します。
寝たきりの原因
1位 脳血管疾患 2位以降は
高齢による衰弱。(筋力低下)転倒・骨折。認知症。関節疾患です。
男性に多いのが脳血管疾患、女性に多いのが筋力低下、転倒・骨折、認知症、関節疾患です。
筋力低下は「年のせい」だけではありません
アメリカのタフツ大学の研究によると、虚弱高齢者であっても、高負荷のトレーニングは可能であり、筋力が2倍に向上したとの報告もあります。
粗食が元気で長生き?
大正時代の平均寿命は 男性 43歳 女性 44歳 です。
対して、2010年の平均寿命は 男性 79.6歳 女性 86.3歳
と、2倍近く上昇しております。この要因のひとつに「食の欧米化」のおかげでもあります。油脂類、牛乳を摂取するほど生存率は高いというデータもあります(2004年NHKスペシャル「65歳からの食卓、老化への挑戦」より)。
<低栄養予防のための指針>
- 動物性たんぱく質を十分とる
- 魚と肉の比率を1:1にする
- 肉はさまざまな種類を摂取し、偏らないようにする
- 油脂類の不足に注意する
・・・など
低栄養を判別する数値は「アルブミン(たんぱく質)値」です。70歳以上の方で4.3dl以上あれば良好。たんぱく質が低下すると低栄養状態になり
寝たきりになりやすい⇒ 歩行↓ 心疾患罹患率↑ 知的活動↓
高齢者の場合、たんぱく質やコレステロールが高い程健康余命が伸びやすくなります。コレステロールが心臓病に対する影響が高いのは40~45歳。50歳から確率は半減します。トレーニングよりまずは栄養面の改善から。
最近の研究では血管系疾患対策にビタミンBが心筋梗塞や脳血管障害の可能性を低下させる働きがあり注目されております。
B6・・・ニンニク、ピスタチオ、胸肉、ブリ
B12・・・しじみ、あさり、カニ、サバ
「規則正しい生活をし、なんでも好き嫌いなく食べる。肉や魚もしっかり食べる人が長寿の人が多い。栄養状態が良い人ほど、元気で認知機能が高く、長生きする傾向があります」(慶応大病院 広瀬 信義先生)
人間の体力は20~30歳がピークであり、それ以降は毎年2~3%低下します。60歳を超えると体力は一気に低下します。
転倒・骨折に対する新しい予防対策として注目されているのが、ビタミンD(干ししいたけ、鮭、うなぎ、レバー、肝油、日光浴)です。
一日10種類の摂取が理想。1~3品目では寝たきりになる確率が上がります。
※アルコールの取りすぎは脳の委縮を促進させるそうです。ビールはGI値(血糖の上昇率)が高いのでメタボになる危険性があります。飲みすぎに注意。
高齢者と薬
高齢者の中には一日何種類もの薬を飲んでいる方も多いと思います。
最近転倒の原因に薬が関係しているのでは?という研究もされ始めました。
東京逓信病院で転倒が多い患者さんの投薬量を調査した結果、薬の効き目が長い(=半減期が長い)睡眠薬を飲んでいる方が多いという結果が出ました。そこで薬の種類を効き目が短いものに変えたところ、転倒リスクが減少したとのことでした。
らに、過剰な抗精神病薬は多すぎると強い眠気とだるさで動けなくなり、いわゆる「過鎮静」状態になってしまいます。本人の意思を抑え込む薬を飲まされていることが多いのでは?という見方もあります。
日本薬剤師会では、「飲み忘れたり飲み残したと思われる薬剤費が年間500億ほどあるのではないか???」というデータがあります。
背景には「数、種類が多すぎて飲みきれない」「副作用が怖くて勝手に量を減らす」ことがあり、医師の指示通りに飲んでいない可能性が問題視されております。
それじゃ意味無いですよね・・
作用時間の長い薬は、翌日まで効果を持ち越すことがあり、注意力・記憶力の明らかな低下や認知症的症状を呈することもあります(東大病院 老年病科 准教授 秋下雅弘先生)
よく「使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って・・・」といわれますが、出された薬を正しく飲むことが大事なのですね。ただ、薬を飲むことで他の症状が出てしまう場合は医師や薬剤師の方によく相談しましょう。いろいろな病院で薬をもらっている場合はお薬手帳を持参しましょう。
糖尿病(生活習慣病)
よく「かぜは万病の元」と言われておりますが、それに加えて「糖尿病は万病(+認知症)の元」も入れた方がいいかもしれません。
多くの方が糖尿病について認識はしておりますが、ちょっとおさらいしてみましょう。
まず生活習慣の悪化により、糖分が多く血の中に残ってしまいます(血糖値が上昇)。
すると膵臓(すいぞう)が血糖値を下げようとインスリンというホルモンを出して血中のブドウ糖を吸収します。
ですが絶えずインスリンを出し続けていると膵臓が疲れてしまい、ひどくなるとインスリンが出なくなってしまいます。
インスリンが出ない(少ない)とブドウ糖が血管内に残ってしまい血管を傷つけてしまいます。→細い血管や神経がダメージを受け、網膜や手先の細い部分、腎臓に障害が発生。失明や足の切断の危険もあります。
さらに血中にあるカルシウムはインスリンの分泌を調整しますが、リン酸(インスタント食品やスナック菓子に多い)によってカルシウムが不足すると骨からカルシウムが溶け出します。その結果骨密度は減ります。
糖尿病は認知症の原因となるたんぱく質を脳に作りやすくなり、健常な人と比べると3~4倍認知症になりやすいというデータがあります。さらにガンによる死亡率は2.1倍、メタボリックシンドロームが加わると脳梗塞は5.4倍、心筋梗塞は5.1倍かかりやすくなります。
糖尿病予防についてはしっかり食事+運動療法が効果的です。やはり
- 野菜やこんにゃく、海藻など食物繊維を含む食品を先に食べる(順番が大事です)。食事の量が自然に1~2割、無理なく減っていきます。
- ショウガ、トウガラシ、ネギ、ワサビは、アディポネクチンという生活習慣病を予防するホルモンの分泌を促してくれます。
- 炭水化物や清涼飲料水、肉の脂身は取りすぎない
ことがあげられております(東京医大病院糖尿・代謝・内分泌内科 小田原教授)。
食物繊維は、腸でブドウ糖の吸収を穏やかにし、血糖値を上げにくくします。玄米もしくは白米+納豆やモロヘイヤ、ジュンサイなどネバネバしたものと一緒に食べても、血糖値の上昇が少し緩やかになります。
⇒血糖値が急激に上昇すると、血管が傷つきます。
一方、炭水化物や清涼飲料水は糖分が多く、血糖値を上げやすいです。
良くない食べ方の例
「ドカ食い」「朝食抜き」「夜遅い食事」
認知症編
認知症とは(認知症の特徴)
- 記憶の障害(今日が何月何日かわからない、自分がいるところがわからない、言葉が出てこない、注意力が続かない、段取りが悪い・・・等)
- 最近半年の間に状態に変化があった
- 社会生活に支障がある(一人にしておけない状態)
という診断基準があり、原因として
ⅰアルツハイマー病(全体の60%)
ⅱ脳血管障害(15%程度)
ⅲその他
に分かれます。認知症患者はここ10年で14倍増加しております。
・認知症の原因
認知症の原因ははっきりとは不明ですが、主に遺伝 加齢 生活習慣
といわれております。特にアルツハイマー型認知症の発生メカニズムは
体が酸化する(いわゆる加齢)→脳内のタンパク質(アミロイドβ)が切断される→神経線維のかたまりができる→神経線維のかたまりが生きている神経細胞を殺してしまう(脳が委縮する。↓下図)
という流れで発生し、海馬への障害=記憶障害が最も目立ちます。病気が発症する10~20年前からアミロイドβがたまりはじめているようです。
(図の参考:国立循環器病研究センターホームページより)
2013年、認知症患者は約460万人(平成25年6月現在。さらに増加中)・・・東京の人口は約1300万人
75歳をすぎると認知症患者は急激に増加します。60歳以上の10人に1人いるといわれております。
認知症の治療
残念ながら現在認知症の治療薬は開発を待たれている状態です。薬物療法、非薬物療法(音楽療法・運動療法・アニマルセラピー等)ともに効果としては認知症の予防・抑制程度のものです。
認知症の前段階といわれる軽度認知障害(MCI)の数は400万人とのこと。ですが努力次第で発症を遅らせることは可能です。
「認知症」と「もの忘れ」の違い
よく質問をいただきます。認知症ともの忘れの違いについてご説明いたします。
例えば、テレビのリモコンが手元にあるとして・・・
・「どう使う」かがわからない。忘れた⇒もの忘れ
・「これは何?」何をするものなのかがわからない⇒認知症
といった違いがあります。
また、「自分は忘れっぽい」という自覚がある⇒もの忘れ。自覚がない⇒認知症という目安もあります。以下に簡単な見分け方を載せました。
簡単な区分 | 体験した事 | 物忘れしている自覚 | 症状の進行 | 日常生活に 差支え |
物忘れ | 一部を忘れる | ある | しない | ない |
認知症 | 全部を忘れる | ない | する | あり |
認知症と関連が深い病気
先ほど脳内にタンパク質(アミロイドβ)が沈着すると認知症になりやすくなると書きました。ですが人間本来アミロイドβを分解する酵素をもっております。その名前は「インスリン分解酵素」。
察しの良い方はお分かりと思います。「糖尿病」になるとインスリンが出なくなり(出にくくなり)、アミロイドβが分解されにくくなるのです。
あるデータでは糖尿病患者(予備軍も含みます)は健常者より3~4倍認知症にかかりやすいとあります。
生活習慣が原因の糖尿病は、認知症の引き金にもなってしまうということを知っていただきたいです。
次回は「認知症予防」についてご紹介いたします。